埼玉大学 理学部 / 大学院理工学研究科
生体制御学科 / 生体制御学コース
Department of Regulatory Biology, Saitama University

生き物紹介

生体制御学科では、ここで紹介する生物を研究対象とし、様々な生体制御機構を研究しています。

アカパンカビNeurospora crassa(子嚢菌門核菌類タマカビ目ソルダリア科)

 アカパンカビと言うと、食パンに生えるカビを想像してしまいますが、そうではありません。山火事のあとに出現するオレンジ色のカビで、パンを焼く釜にも生えることからその名前がつきました。このカビを用いた重要な研究成果として、高校の生物の教科書でもおなじみの、「一遺伝子一酵素説(ビードルとテータム)」があります。栄養要求株を用いて、多くの物質の代謝経路に関わる遺伝子の上位性を明らかにしたこの発見は、アカパンカビが遺伝学のモデルとして優れていることを示すものであると言えます。他にも時計遺伝子、エピジェネティクス、遺伝子重複など、先進的でユニークな研究が行なわれています。ちなみに、パンに生える赤い(ピンク色)のカビは、フザリウムというカビの一つです。

シャジクモChara corallina(シャジクモ綱・シャジクモ目・シャジクモ科)

 湖沼や池・水田などに生息する植物です。「シャジクモ」は狭い意味ではChara braunii(キャラ ブラウニ)という一種の植物を指しますが、通常はシャジクモ類とも呼べるグループを表します。シャジクモ類は体を構成する細胞の一つひとつが大きいのが特徴で、なかでも節間細胞と呼ばれる細長い細胞は、長さが10 cm以上になることもあります。この節間細胞が縦に繋がって体の主軸を構成しています。節間細胞と節間細胞のつなぎ目を「節」と呼びますが、節から出ている葉を車輪とみなすと、節間細胞が車軸に見えることから「車軸藻」と呼ばれます。
節間細胞はとても大きいので、タンパク質を注入したり、細胞の中身を人工細胞液で入れ替えるという手術を施し、その後、細胞がどのように変化するかを調べることができます。また節間細胞は、「原形質流動」や「細胞興奮」などを解析する材料としても用いることができ、動物の筋肉や神経の細胞に見立てて、「緑の筋肉」とか「緑の神経」と呼ぶことができます。写真は、Chara corallinaというシャジクモ類の一種です。オレンジ色の構造は雄性生殖器で、ここで精子が作られます。

ヒメツリガネゴケPhyscomitrella patens subsp. patens(蘚綱・ヒョウタンゴケ目・ヒョウタンゴケ科)

 冬から春にかけて沼地などに生育する小型の種で、他の蘚類同様、その生活史は、原糸体(写真上)または茎葉体(写真下)といった配偶体(n 世代)が優勢です。雌雄同株で、短日下で茎葉体上に球状に近いに胞子体(2n 世代)を形成します。実験には1962 年にイギリスで採取された株が用いられています。コケ植物の中でもヒメツリガネゴケは、近年、高い相同組み換え効率で遺伝子導入を行うことが可能であることが明らかにされ、遺伝子ターゲッティング法が確立された唯一の植物です。また、最近その全ゲノム情報も解読され、代表的なモデル植物として機能ゲノミクス研究に世界中で用いられています。

ゼニゴケMarchantia polymorpha L.(ゼニゴケ亜綱・ゼニゴケ科)

 世界中に分布する苔類の代表的な種で、日本でも人家近くに普通に見られます。二叉分岐する葉状体(配偶体)上に作られる雌器托(写真上)、雄器托(写真下)が特徴的です。庭園などでは邪魔者扱いされることの多い苔ですが、古くから生物学の実験材料として用いられてきました。近年、さまざまな陸上植物の中でゼニゴケなどの苔類が系統上、最も初期に分岐した「基部陸上植物」であることが明らかにされ、植物の進化を研究する上での貴重な実験材料として注目されています。

タバコNicotiana tabacum(双子葉植物綱・ナス目・ナス科)

 タバコはナス科タバコ属の一年草で、その葉を加工したものが「煙草」です。タバコ属には約50種の植物が属していますが、その中の一種であるNicotiana tabacum(ニコチアナ タバカム)は特に商品価値が高く、いろいろな品種が選抜され栽培されてきました。写真は、Nicotiana tabacumのなかのブライトイエロー2号という品種に由来する培養細胞です。この培養細胞は今から40年以上前に植物体の茎の組織から誘導され、培養されてきました。ブライトイエロー2号という品種に由来することからBY-2細胞と呼ばれています。BY-2細胞は増殖が速く遺伝子導入が容易であるなどの理由で、基礎生物学の実験材料として世界各国で広く使われています。

ゼブラフィッシュDanio rerio(コイ目コイ科)

 ゼブラフィッシュはコイ科に属するインド原産の熱帯魚であり、口ヒゲや咽喉の奥に歯をもつなどコイと共通の特徴を持ちますが、体長は成魚でも5cm程度の小型魚です。鮮やかなストライプに加え、飼育や繁殖が容易なことから、熱帯魚愛好家にもポピュラーです。
このゼブラフィッシュは、先端発生生物学研究における有用なモデル動物のひとつでもあります。その主な理由として、発生が早く、受精後2~3日(28.5℃)で初期発生、そして器官形成が完成するため、効率的な実験が組めることが挙げられます。また、母体外で発生が進行することに加え、胚の透明性が高いために、胚の発生の進行をリアルタイムで顕微鏡観察できます。重要なこととして、他の脊椎動物と基本的には同じ発生過程をたどりますが、高等脊椎動物に比べて形態が単純であり、解析が容易です。さらに、ゼブラフィッシュが注目される最大の要因として、興味のある突然変異体を単離する遺伝学的手法が可能であることが挙げられます。この利点は、小型であるため大量飼育が可能であり、世代時間が2~3カ月と短いといった特徴に由来します。分子生物学的手法の導入やゲノムプロジェクトの成果と相まって、今後、脊椎動物発生機構の遺伝子レベルでの解明に大きく寄与すると期待されています。

ウシガエルRana catesbeiana(両生類・無尾目・アカガエル科)

 1918年(大正7)にアメリカから日本に移入され、食用として養殖されました。現在では日本各地の池や沼、流れの緩い河川などに広く生息しています。食用ガエルとも呼ばれ、「ブォー、ブォー」というウシに似た鳴き声で鳴きます。捕食性と繁殖力が高く環境の変化にも強いことから、在来種に対する影響が懸念され、特定外来生物に指定されています。卵生で、孵化した後、幼生(オタマジャクシ)は成長し、成体(カエル)へと変態します。幼生も成体も大型で、飼育も容易なため、変態に関する様々な解析や、多くの生理学的実験などに広く用いられています。
調節生理学研究室では、ウシガエルの幼生や成体を用いて、変態の制御に関わるホルモンの分泌調節機構などについて研究を進めています。

ニワトリGallus gallus domesticus(鳥綱キジ目キジ科)

 野鶏から早くに家禽化されたニワトリは、肉や卵、羽毛が利用されているだけでなく、がん、ウイルス、免疫、発生、神経科学などの様々な研究分野や、ワクチン、医薬品の生産にも利用され、人類に多大な貢献をしています。
ニワトリは羊膜類であり、哺乳類と発生過程が似ていること、さらに胚発生が卵内で進行するので胚へのアクセスが非常に容易であることなどから、発生学の研究にとって優れたモデル生物です。2004年には全ゲノム配列が解析され、遺伝学的な研究も進んでいます。
生体制御学科の細胞制御学研究室では、ニワトリ胚を用いて、in situ hybridization法や電気穿孔法による遺伝子導入等のさまざまな手法を駆使して、下垂体初期発生機構の解明を目指した研究を行っています。

ジャコウネズミSuncus murinus(食虫目トガリネズミ科ジネズミ亜科ジャコウネズミ属)

 和名はジャコウネズミで、一見するとネズミですが、齧歯目ではありません。研究室では、実験動物として齧歯目と区別するために、ジャコウネズミではなくスンクスと呼ばれています。
主に昆虫類を食べ、熱帯や亜熱帯の温暖な地域に住みます。系統発生学的には、ほぼすべての胎盤を有する哺乳類の始祖とされています。頭胴長は6-10cmで、ラットやマウスと比べて、細長く扁平に見えます。トガリネズミの名前に有るように、鼻先が伸びてとがった三角形の形状をしています。また、胴体の両脇にじゃ香腺が存在し、独特のムスク臭を発します。スンクスの胃の形態はヒトやイヌに近く、また薬物や動揺刺激により嘔吐反応があることから、嘔吐反応の動物モデルとして研究に用いられて来ました。
生体制御学科の細胞制御学研究室では、スンクスが消化管ホルモンであるグレリンとモチリンを産生・分泌することを発見し、モチリン・グレリンファミリーの研究に利用可能小型実験動物として提案しています。現在、スンクスを用いて、モチリンとグレリンが関連する空腹期収縮運動の研究を行っています。

ラットRattus norvegicus

 愛玩動物としても飼育されることもあり、比較的おとなしく、ヒトにもよく馴れます。生物学および医学分野で、マウスと並んで実験動物として広く用いられています。マウスに比べると大型で、体重は約10倍です。そのため、材料の採取が容易で十分な量を得ることができます。また、薬理学実験や行動学実験データが蓄積しており、その研究分野では非常に有用な実験動物です。いろいろな系統が存在し、生体制御学科では、Wistar系統、Sprague-Dawley系統、Long-Evans系統などが用いられており、細胞制御学研究室では消化管ホルモンの研究や体内時計の分子生物学的研究、調節生理学研究室では性分化の神経内分泌学的研究や記憶・学習の神経行動学研究を行っています。

マウス(ハツカネズミ)Mus musculus

 古くから愛玩動物として飼育され、白黒まだら、白、黒と好まれる毛色が珍重されてきました。そのため、系統樹を作製して、好みの毛色のネズミを掛け合わせていたため、実験動物として近交系(兄妹交配を20世代以上継続して得られた、遺伝子的にほぼ同一になった動物)を早く作製することができました。現在では約20系統程の近交系マウスが市販されています。ほ乳類のモデル動物として広く動物実験に用いられ、2002年にほ乳類ではヒトに続き、2番目に全ゲノムが解明されました。分子生物学的研究をする上でのツールとなる、cDNA、SNP(一塩基多型)、マイクロサテライトマーカー、ゲノムDNAのBAC(細菌人工染色体)ライブラリーなどのデーターベースやライブラリーが非常に充実しています。また、遺伝子変異動物においても、自然発生や人為的に関わらず、多くの変異体が見つかっているだけでなく、トランスジェニックマウス、ノックアウトマウスの作製方法も確立され、遺伝子機能を調べる上で有用な実験動物として使用されています。特に、増殖能と分化能を有すES細胞(胚性幹細胞)の作製とその遺伝子改変技術を利用したノックアウトマウスの作製技術はマウスの有用性を大きく高めました。この業績によりマリオ・カペッキ、マーティン・エヴァンズ、オリヴァー・スミティーズは2007年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。分化後の細胞に多能性分化能を持たせた人工多能性幹細胞(iPS)技術の開発により、今後、マウスの遺伝子改変技術は更なる発展が期待されます。