埼玉大学 生体制御学科 / 生体制御学コース

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生物エッセイ

カビの寿命とヒトの難病

掲載:2011年12月2日

 いつまでも若く、いつまでも生き永らえたい。ほとんどの人がそう望みます。しかし、人は老い衰え、やがて寿命を迎えます。これは生き物の宿命です。多くの研究者が、老化や寿命がどのようにしてもたらされるのかについて取り組んでいますが、その研究範囲はとても幅広く、寿命について理解すべきことは山ほど残されています。

 私は、アカパンカビという菌類の寿命を研究しています。普通の人はカビの寿命と言ってもピンとこないでしょう。事実、このカビは2年以上元気に菌糸を伸ばし続け、どのくらい生き続けるかはっきりしておりません。しかし、ある遺伝子に異常があると、栄養が十分であっても、3週間たらずで菌糸の伸長が止まってしまいます。これをカビの寿命とすると、異常があった遺伝子が寿命に関係していることになります。

  私の研究室では、このようにカビの寿命につながっている遺伝子をいくつか発見してきました。その中の一つはミトコンドリアの形態の維持に関わっています。ミトコンドリアとは、動物、植物、菌類、原生動物の細胞の中にあって、生きていくためのエネルギーを作る大事な器官です。ミトコンドリアは頻繁に分裂したりくっついたりを繰り返していて、これがミトコンドリアの機能を維持するために重要であることが、最近の研究によって分かってきました。この遺伝子の異常は、ミトコンドリアの形態が維持できない、つまり頻繁に繰り返されるはずのミトコンドリアの分裂と融合のバランスが崩れて、ミトコンドリアが断片化したままという事態を引き起していました。これが引き金となって、ミトコンドリアに含まれるDNAがボロボロになり、ミトコンドリアの機能が失われ、菌糸が伸び続けるためのエネルギーが不足したために、寿命を迎えたのだろうと考えています。

  このようにミトコンドリアの機能異常は、細胞の寿命に大きく影響を与えます。人間では心臓や脳などに異常を生じるミトコンドリア病という難病があり、いくつかの遺伝子の異常が原因であるとされています。しかしながら、その発症メカニズムの解明のためには、未だに分かっていない多くの遺伝子の機能を調べなければなりません。それはヒトの細胞を用いた場合、非常に大変なことです。そこで色々な遺伝子をフットワーク良く解析でき、ヒトの細胞と同じミトコンドリアの維持機構をもつこのカビの利点が生かされます。カビの寿命の研究で得られた知識がミトコンドリア病の理解に役立つことを期待しています。

遺伝学研究室畠山 晋 講師

ミトコンドリアの異常

図. (A)正常に機能しているミトコンドリア (B)異常となったミトコンドリア

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