埼玉大学 生体制御学科 / 生体制御学コース

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生物エッセイ

体内時計を活用せよ

掲載:2010年10月1日

生物の体の中には約24時間周期で動く時計が存在します(体内時計)。この時計のおかげで、例えば、体温は就寝時に低くなり、エネルギー消費を少なくしますが、起床する前に環境の刺激(例えば日の出)がなくても徐々に上昇し、活動に備えます。このように、体内時計は様々な生理現象が適切な時期に適切な状況になるよう調整します。体内時計の研究が盛んなアメリカではその研究成果を社会生活に積極的に取り入れています。例えば、シフトワークと呼ばれる夜間の勤務では眠気や集中力不足が事故や生産性の低下の原因となります。そのため、どのような勤務体制をとれば、体に負担無く夜間勤務に従事するか検討されています。その解決法の一つとして、人間の体内時計の周期である25時間(測定条件の違いにより24時間周期との報告もあり)で生活する方法があります。すなわち、勤務開始時刻を毎日1時間ずつ後ろにずらしていくのです。12日後には昼夜が逆転し、更に12日後には通常の勤務に戻ります。この方法はスペースシャトルの発射にも応用されています。シャトルの発射が夜間に行われる場合、発射時刻に操縦士の集中力を高めるため、乗務員は2週間前からシェルターに入り、人工の環境周期のもとで徐々に活動時刻を調節し、発射に備えるようです。

前述したように人間の体内時計は25時間ということもあり、飛行機による東方への移動(活動時刻が前に移動)よりも西方への移動(活動時刻が後に移動)の方が体への負担(時差ボケ)が少ないことが知られています。アメリカは、日本と異なり東西にも長く、アメリカ本土の東海岸と西海岸では3時間の時差があります。3時間の時差なので時差ボケはあまりないと思われますが、体には負担があるようです。著名な体内時計の研究者であるSchwartz博士は熱狂的な野球ファンとしても知られていますが、彼は西海岸から東海岸、東海岸から西海岸の2つの移動で勝率に違いがあるか調べました。1991年から1993年の大リーグの試合で、移動がないときのホームチームの勝率は0.54でした(ホームフィールドアドバンテージですね)。西海岸のチームが東海岸の敵地に移動した直後の試合の勝率は0.371(ホームチームの勝率0.629)に対し、東海岸のチームが西海岸に移動した場合は0.438(ホームチームの勝率0.562)となり、東海岸のチームと西海岸のチームでは勝率で0.067の差がありました。このように、3時間の時差でも西方への移動の方が、体に負担が少ないことが客観的に明らかとなったのです。彼に負けず、私も1960年以降の大リーグのプレイオフで西海岸チームと東海岸チームの直接対決の成績を調べたところ(便宜的に調べたので、移動の方向、移動直後または移動がないなどは考慮に入れていません。)、58回の対戦(ワールドシリーズ11回、リーグ優勝決定戦29回、地区シリーズ18回)で、東海岸チームの36勝22敗でした。やはり、大リーグのチームを持つなら、体内時計を味方につけて東海岸に!ですね。

細胞制御学研究室足立明人准教授

体内時計
 概日リズムを示す生理現象の特徴的な時刻
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