埼玉大学 生体制御学科 / 生体制御学コース

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生物エッセイ

液胞の形成メカニズムを探る

掲載:2012年11月26日

 私たち動物の体は細胞からできています。植物の体も同じですが、一般に、植物の細胞は動物の細胞よりも大きくつくられています。これは、植物細胞が水分含量の高い「液胞」という構造を発達させ、細胞の充填材として利用していることに因ると考えられます。酵母などのカビの細胞にも液胞は存在しますが、大きくはなく、液胞が細胞の体積の9割以上を占める植物細胞とは状況が異なります。液胞内のタンパク質濃度は細胞質基質の約1/100と低く、液胞を用いた細胞成長は植物にとって経済的であると考えられます。植物は、液胞を発達させ細胞を大きくすることで、個体としても大きく成長するという戦略をとって進化してきたと考えられます。 植物の体の中では、 茎や根の先端付近で新しい細胞が作られています。新しくできた細胞はまだ小さく液胞がありませんが、次第に小さな液胞が作られ、それが大きくなり、細胞も大きく成長していきます。

 実は、植物細胞において、液胞がどのように形成されるかに関しては、いまだ充分に理解されていません。いくつかの説があり、その中に、オートファジーと呼ばれる細胞質分解経路を通して液胞が形成されるという説があります。  オートファジーとは、細胞質の一部が隔離された構造が細胞の中でまず出来上がり、その後、隔離された細胞質が液胞(動物ではリソソーム)に運ばれて、最後は、液胞(動物ではリソソーム)内のタンパク質分解酵素の働きで分解されるという現象です。

 私たちはこれまで、植物細胞におけるオートファジーのメカニズムとその生理的意義を調べてきました。その過程で、オートファジーが液胞の形成と密接に関連していることを再発見しました。

 例えば、タバコの培養細胞を手術して液胞のない細胞(ミニプロトプラストと呼ばれる)を作製することができます。このミニプロトプラストは液胞がなくなっても生きており、1-2日間培養すると液胞が再形成されて、最終的には元の細胞の形に戻ります。タンパク質分解を阻害する薬剤でミニプロトプラストを処理しておくと、形成された液胞の中に細胞質の未分解物が蓄積してきます。このことは、新しく形成される液胞は細胞質を取り込んで分解していることを明確に示しています。すなわち、液胞はオートファジーを行い細胞質を消化しながら大きくなっていると考えられます。

 しかし、いろいろと不明な点も出てきました。一つはオートファジーの種類の問題です。オートファジーにはいろいろな様式があるようで、液胞形成に伴うオートファジーは一体どのように進行するのかが全くわかっていません。  本研究では、今から30年以上前に提唱された「植物の液胞がオートファジーによって形成される」という仮説を今日のオートファジーの知識を使って解析・検証しているわけですが、現在は、「液胞の形成」過程を「液胞が新規に作られる」過程と「小さな液胞が拡大化する」過程の2つに分けて、それぞれの過程とオートファジーの関わりを明らかにしようとしています。

 オートファジーという現象は動物や植物に普遍的な現象です。私たちは、植物がこの普遍的な現象を、液胞という植物に特有の構造の形成・拡大のために利用しているという植物の生き様を明らかにできると信じて、研究を続けています。

形態形成学研究室森安 裕二 教授

脳-腸相関

図. タバコの培養細胞(上)。ミニプロトプラスト(下)。

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